農家を辞めるのか?と問われて

たそがれ野育園キッチンファームをはじめるにあたり、「野菜」販売農家をやめると書いたところ、多少の誤解を生んでしまったようで、「え、もう作物の販売を止めるの?」と人に会う度に聞かれます。きちんと説明できていなかったようなので、もう少し詳しく書いてみます。

まず、うちの営農は小規模多品目栽培農家で主力作物は米・大豆などの穀類と、ジャムや餅、米加工品、味噌などの加工品の販売です。こちらはこれまで通り続けます。

今回、やめる宣言したのは「野菜」についての「販売」部門で、「野菜生産」はこれまで通り続けます。

加工品や穀類では夏場の「華」となるものがないために手がけてきた「夏野菜」でしたが、ここまで5年ほど手がけてみてたくさんの学びがありました。まずは水田を畑地化することから、当地の重粘土でも育つ作物選び、重粘土の扱い方一つ間違えると全く手をつけられなくなることや、そのために天候(とくに降雨)をいつも気にしなければならないことや、排水対策。それ以外にも最初は畑も不耕起でと試みても全く採れない経験から、無農薬・無化学肥料でもある程度、収穫を得られるようになるまでの試作がたくさんありました。

ブルーベリーは半分失敗。でも5年目にして良い兆しも見えたりします。大豆は加工食品が主で、直接販売の食料として販売するには無理があり、加工品にしなければ売れない。などそれぞれの作物にそれぞれの悩みがあったりしますが、米だけつくっているよりは幅があり楽しみはあります。

夏野菜とひとくくりに言ってもいろいろありますが、基本的なところでトマト、ナス、ズッキーニ、きゅうり、インゲン豆やじゃがいも、里芋、オクラやモロヘイヤ・空芯菜、かぼちゃ、ネギ、にんじんなどが当地で栽培実績を重ねた作物です。あまり珍しい野菜をたくさん作るよりも、やはり調理のことから考えても重要作物は決まってくるようです。

これらの夏野菜は家庭菜園でもよく作られている作物で、自給作物に向くもの。反対に営農作物としては不向きだということもわかってきました。葉物は足がはやく、保存が効かない。小さな芋などの廃棄物も本来まだ食べられるのに売値は付けづらい…。

そんなことから考えたのが家庭菜園の延長として農地を利用する展開です。

できた野菜を販売することはやめますが、野菜づくりのプロセスそのものを手放したら良いのだと思いました。みなで自給野菜を作るための場づくりを目指すのが「キッチン・ファーム」です。

トマトがたくさん取れた夏のある日。わぁこんなに大量のトマトどうやって販売しよう?と頭を悩ませるのではなく、みんな!トマトがたくさん取れたから瓶詰めして保存食をつくろう! という目的の転換です。

いままでは捨てるよりなかったピンポン球サイズの芋は、捨てることなくみなが持ち帰ってくれることでしょう。

畑から収穫した野菜を洗って乾かして袋詰めする手間と、ビニール資材がまったく不要になります。手持ちのざるを持ってきて土付きのまま持ち帰ってもらったら良いでしょう。

みなさまのご賛同により約20組で、この新しい取り組みがスタートできることになりました。これまで費やしていた野菜栽培の時間を別の戦略作物に費やすことができるかもしれません。一つは小麦、せりづくりにも取り組んでみたいです。

お野菜の販売はできなくなりますが、手伝いに来てお裾分けを受け取ることは僕は大いに歓迎したいと考えています。そういう感じでみなが喜びを感じられる畑作りに展開していきたいものです。