tasogare小麦のカンパーニュ

3年ほど前から、小麦の栽培に取り組んできました。水稲の無農薬栽培は除草作業が大変すぎてこれ以上栽培面積を増やせない。大豆は、ある程度無農薬栽培の体系を作り出すことができたものの消費者へ直接のニーズが少ない。詳しくは、過去の記事 大豆か小麦か をご一読いただければと思います。

そうして一年一作、少しずつ種を増やして今季は30aほどの面積で小麦を栽培して見ました。1畝、2畝程度なら、バインダーや自然乾燥、足踏み脱穀などの軽装の道具で自給用としての栽培が簡単にできるのですが、今季の目標は、ある程度の面積をこなして、販売できるだけの麦を採ることと設定しました。

昨年9月に播種した麦の品種は、ゆめかおりとライ麦。実験的に全面散布と条播きを試して、雑草との競合状態、その後の管理の必要性や管理体制の構築を把握するために、それぞれの圃場で条件を変えて播種してみることにしました。

春先はいずれも順調な生育と雑草の発生も少なく見えたものの、収穫が近くにつれて全面播種圃では、雑草の姿が大きくなって来ました。条播きしたところは手入れができるのですが、全面播種圃は手の内ようもなく、このまま麦刈りに突入するしかありませんでした。管理工程の簡略化を目的とした無農薬小麦栽培なので、全面播種、その後の除草管理も不要というのが理想でしたが、これではせっかくの麦も台無し。来季以降は不採用とすることにしました。

こちらは条播きした圃場。枝豆の後作だったので背丈も大きく、穂が折れて来てしまったのでコンバインの準備ができる前にバインダーで刈り取りしてみることにしました。後方に田植え後の稲が青くなって来ている様子が見えます。

バインダーを操縦しているのは、この小麦の使い手でもある薪窯ベーカーかぼちゃの藤原さん。無農薬の小麦を作ってくれたら全量買いますと言って、たそがれの小麦栽培を応援してくれています。

●薪窯ベーカー かぼちゃ 

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水分が25%を超えていたため、刈り取った麦はハサ掛けして乾燥することに。ちょうど7月の梅雨時期と重なり、しかも今年はかなり雨が続いてしまったので、その後の乾燥調整は難航しましたが、8月までには無事に刈り入れすることができました。

同じく、バインダーで刈り取りハウス内で乾燥させていたライ麦も脱穀機を迎えて、藤原さんが足踏み脱穀しに来ました。収穫できたライ麦は約5kg。来季の種用とします。

何度も収穫に足を運んでくれた藤原さんのおかげもあって、暑い中でも楽しく作業をすることができたことに感謝の念がこみ上げて来ました。

思い返すと、藤原さんがオーストリアから本格的な石臼製粉機を買ったので秋田さんの無農薬小麦を作って欲しいと嘆願されて本腰を入れ始めた小麦栽培。秋田には麦の製粉の歴史がないので、米の製粉はできても麦の製粉加工ができる設備がほとんどありません。そうした背景もあり、なかなか小麦の栽培自体が広がらなかったことや太平洋側の気候と異なり、冬季の降雪や刈入れ期の梅雨も問題視されて来ましたが、今年のような長い梅雨でもモノにできるほどの技術が備わって来たのだろうと考えています。

小麦の販売を考えた場合、この生産のハンディを克服した上で、県外の製粉施設に一度運び、委託加工をお願いして、再度引き下げ、小分け販売という工程を踏むことになるだろうと思います。そうなると製粉してからの経過時間による穀物の鮮度、酸化劣化度にも当然問題が発生してくることになります。

詰まるところ、最大のネックだった製粉が生産サイドから切り離され加工サイドである藤原さんが引き受けてくれたことで、僕がやることは玄麦までの生産とその貯蔵で済むことになったと言えます。このことが、いかに大きな条件克服となっているか。過去10年以上にわたって米の直接販売や食品加工と小分け販売をして来たことで得た大きな経験値だなと思います。

同じように、農家が担っている生産工程の端末を食品加工、あるいは消費者の側で引き受てもらえるような仕掛けを考えることができたら、生産の負担は軽減し、その分だけ生産コストも下げることができ、ちょうど良いバランスが生まれるだろうと思うことが多いです。

全量買取を確約してくれているものの、パン屋の厨房に麦の貯蔵設備を作るのは大変なので、必要な時に必要なだけ使ってもらえるよう、うちの倉庫で米同様に保管管理します。

さて、9月吉日。たそがれ小麦がかぼちゃ藤原さんの手に初めて渡りました。「来週のカンパーニュはたそがれ小麦100%だよ!」の連絡を受けて、これは食べなきゃと思い、秋田市内まで車を走らせました。

お店のショーケースに並んでいるカンパーニュの姿を見てひとしきり感動した後、仲間の農家の誕生祝いに届けにいきました。

藤原さんの焼くパンには理由があります。

現在の薪がまベーカーの前身のケーキ主体のお店をやっていた頃、夏休みは長期休暇をとって、欧州へよく旅しに行っていたのだそうです。

ある時訪れたフランスの片田舎で食べたパンが本当に美味しくて、パリで食べたパンと違う。なんで美味しんだろう..と調べた結果、自家製粉と薪釜にたどり着いたのだそうです。欧州の小麦を主食とするような地域では、村に一つは製粉所があって(あるいは現在は家庭にもあって)、誰でもすぐに小麦粉を手に入れることができるのだそう。(こうしたことが、パンやパスタなどの食文化を広げる基礎になっているのかもしれないですね)

これをケーキ屋を止めることからの次の目標とした藤原さんは新店舗に大きな薪釜を取り付け、3年分の薪のストックを自ら割って貯蔵します。秋田産の小麦が入手できるようになるまでは、国内産の有機小麦を探して使用していたそうですが、この夏からはほぼ全量が生産現場も見える生産者との直接取引による無農薬小麦になったそうです。そんな藤原さんが放った言葉は

「これでやっとスタート地点に立てた」

たそがれの小麦もまさにそんな状況です。ようやく試験栽培期間を終えて、来年から本格的な営農の一部門として取り組んでいきたい作目の一つとなりました。小麦があればお醤油だってできるのです。麦茶やもち麦なんかも試して見たいと夢が膨らみます。

藤原さんの焼いたカンパーニュは、ほんのり懐かしい土の香りのある今まで食べたことのないずっしりとした米のようなパンです。何もトッピングせずにバターを塗ってそのまま食べるのが最高に美味しいのですが、自家製ピクルスやチーズもバッチリ。もうこれを食べたら他のパンは食べられなくなりますよ。