キッチンファームの収穫

たそがれ野育園・キッチンファームとして3月末から活動してきた畑も、7月中旬を過ぎるといよいよ収穫物で満たされ、喜びでいっぱいの気持ちになります。

前回までは、春からの種まきや、途中の草取り管理、作物の生育の様子などをお伝えしてきましたが、いよいよ収穫期を迎えた畑の様子をご紹介したいと思います。

そもそもキッチンファームを構想する前段階において、「ファームガーデンたそがれ」として様々な体験をしてきました。

例えば「たんぼ競争から共奏、共想、共創(キョウソウ)のアースワークへ」と綴ったのが2015年の食べるTimes のこの記事 や、

高橋博之(ポケットマルシェ代表)さんによるTEDxのプレゼンテーションにも紹介していただいた「稲刈り騒動」は、見田宗介さんの「現代社会はどこに向かうかー高原の見晴らしを切り開くこと」にも紹介されることになりました。

消費者の方と一緒に、寄り添いあって食糧生産を共に行うフィールドをつくる。「農協への販売委託をやめ、農産物は全て自分の手で売る」と決めてからのたそがれの営農的な経験値が、今の自分の実戦になっていると思います。そういう意味で、やらなければわからなかった販売経験や「畑deマルシェ」などの直売イベントの提案、当初から頭の片隅に置いていた「市民農園」としてのイメージや「農的暮らしのadagio」や「田んぼのいきものトラスト」…などなど様々な試行錯誤が今のキッチンファームへとつながってきました。

野菜の販売は、穀類に比べてとても大変で、手間がかかる上に、販売力がなければすぐ鮮度を落としてダメにしてしまう。かと言ってこれまで通り「米」だけ作っていたのでは食べていけないし、面白みに欠ける。あれもこれも作ってみたいけど、何がうちの粘土質の土壌に適合する作物なのかわからない。土づくりについてもまだまだわかっているようで分からない。

1年1作しか体験できない経験の中で、少しずつ自分との相性の合う作物ということも理解できるようになってきた気がします。

そうした中で重点的に育ててきた作物の一つが「トマト」最初の年は、種を買いましたが、その後は種採りを続けたり、仲間と種の交換会を企画して入手してきました。今季は、「ステラミニ」、「チャドウィック・チェリー」、「ブラックチェリー」、「ブロンコッフェン」、「ブラッディ・タイガー」の5つのチェリー種と、「アロイトマト」、「クォーレ・ディヴエ」の2つの大玉種のほか「イタリアントマト(サンマルツァノ)」の計8品種を合わせて1,000本ほど植え付けました。

5月下旬に植え付けてから6月は順調に生長し、大収穫祭となる予定でしたが、今年はしっかりとした雨季となった梅雨時の雨で、最初の1段目は採れたもののその後が全くダメでした。これはお天気の影響だけでなく、僕の栽培技術にも問題があるのだろうと考えていて、もっと勉強してちゃんとトマトを収穫できる技術を身に付けたいと思う経験となりました。とても悔しいです。

同じくじゃがいもも雨続きの土壌で腐れや虫食いも多く、ほとんどが小玉のまま、上部が枯れてしまいました。植え付けをもう1,2週間早めたら少し結果が違っただろうと思うとこれも悔しいです。来年以降は高畝にしてからの播種や畝幅を広めにとって、より高畝管理ができるように改めるつもりです。

人参も先のほうが腐ったりほかにも、きゅうりやエンドウ、ズッキーニなどもあまり芳しくなく、とても残念な想いをメンバーにさせてしまったと思います。今年もそんな経験をして想うのですが、毎年、良い作物があれば良くない作物もあるもので、一度成功したからと言って、翌年も同じようにうまくいくとは限りません。その年の天候とのマッチングのようなこともあるし、条件づくりがたまたまうまくいくこともある。まだまだそんな推測の域を出ない一年生農家ですが、そういう失敗もキッチンファームのメンバーと共有できることに意味があると考えてみると、少しだけ気持ちが落ち着いてきます。

販売農家の場合は、商品となるA品のみが市場で評価を受けるので、BとCについては価値がありません。しかしながら、キッチンファームではBとCでさえ価値あると思うし、利用できるならCの一部でも使って欲しい。

そうしたことをメンバーに伝えると、「人参の葉っぱ嬉しい!」「じゃがいもの小芋揚げものにしたい!」と嬉しい言葉が返ってきたりします。

僕がキッチンファームで参加メンバーに伝えたいのは、第一に「収穫の喜び」です。その喜びを得るためには、種採りから種まき、発芽、鉢上げ、草取り、植え付けをしてその成長を見守る眼差しが必要だと考えます。しかしそうした一つ一つの工程をこなしても、収穫に結びつかないことがある。そうした「失敗がある」自然相手の仕事であるということが次に伝えたい重要なことだったかもしれません。

収穫直前のトウモロコシが何者かによって食い荒らされることだってあります。発芽したはずの大豆が、鳩によって一夜にして消えて無くなってしまうもザラです。それでも、播き直し、植え直しを繰り返し、1年1作の経験値として身体の記憶として刻まれます。

全部が全部ダメだったわけではありません。雨がちの天候を好む作物もたくさんあります。例えばナス。ナスもトマト同様種採りを繰り返し、今季は3品種。長茄子は「立石中長」という品種。サイズ感がちょうど良く美味しいです。それに「青ナス」は翡翠ナスとも呼ばれる絶品種。白ナス「スノーウィ」もトロトロになる果肉が美味しく、それぞれ特徴のある3種に絞ってきました。

オクラは「紅オクラ」という赤くて角ばった品種と丸さやの「島オクラ」。紅オクラは加熱調理で赤色が抜けてしまうので生食用に。島オクラは実が大きくなってもあまり固くなりづらいのでたくさん収穫できるし重宝します。オクラもいまだに好調を続け、今季の夏野菜の裏方として頑張ってくれました。

丸ズッキーニの「ロンドデニース」や「コルノデトーロ」というピーマンなども種採りを続けてきた品種で美味しいです。特においしいと思った作物を残していくと楽しいですよね。枝豆も採れ始めました。

ホーリーバジル(トゥルシー)は爽やかな香りで花を水出しのフレッシュハーブティにすると絶品です。乾燥して茶葉としての利用もできますし葉を食すこともできます。これもたくさん種が採れます。トマトの間に植えたのでトマトが枯れてからはトマト畑がトゥルシー畑に。

スイカ「大和2号」は10株ほど植えたつもりですが、実になったのが数個しか見当たらず、キッチンファームのメンバーが集まったときに畑で採れたてをその場でいただくスタイルにしました。スイカって家の中で食べるもんじゃないだろうと思っています。

ちゃっかりと夏の人気者たちも収穫できるというのが魅力だと思います。「畑で捕まえたカナヘビを飼っているからバッタを捕まえていく。」とか「田んぼのザリガニが卵を産みそうだ。」とか生き物好きの子たちの目が輝きます。

菅笠用のスゲもしっかり乾燥して、保管します。

フローレンスフェンネルはどうやって食べるの?

キッチンファームにはサポーターズメンバーもいます。遠方からの資金的なサポートでキッチンファームを応援してくださる方へ、不定期の野菜詰め合わせセットを送ります。野菜の販売をやめてから、この作業は全くやらなくなったので、ずいぶん手間取りましたが、それぞれの野菜を袋詰めして梱包、発送しました。

後日、もう少し簡易包装でも良いよ。とメッセージを頂いたのですが、生鮮物の地方発送はとても難しいです。今この状態であるものが、届いたときにどうなっているんだろう?トマトは潰れないか、バジルや空芯菜が冷蔵車の中で変色していないか。何度かの温度変化で味は劣化していないか。開けたときにどんな匂いがしてどういう印象があるのか…いろんなことを想像しながら、やはり野菜は採ってすぐを食べてもらうのが一番なんだよなと考えたりします。

ダメだったトマトも少しは収穫できたので、最初で最後かもしれないと思い、ケチャップ作りのキッチンワークをすることにしました。

畑で収穫したトマトのヘタをとって洗い、

煮ます。お好みによって皮を取ったり、スパイスを加えて煮詰めればケチャップに。

参加できないメンバーに配る分もできました!

試しに米粉ホットケーキミックスに混ぜてみたりも。

ジェノベーゼだっていろんな野菜を使って作ることができるので、思いついたらどんどん試作すると良いです。畑には採り切れないほどの野菜が育っていますから。

採れたての野菜をその日のうちにいただいてもらうのが野菜を美味しく食べるコツだと思います。だから必要な分の野菜はいつでも収穫できるようにしていて、たくさん来てくれればそれだけたくさんの収穫物を得られることになります。毎日のように続く収穫は、人間の登場を待たずにどんどん大きくなっていきます。

その採り頃のタイミングを見逃さずに適期収穫することが、次の花芽へとつながる作物の管理となることも学んでいただきたい部分です。

畑で収穫を共にした子どもたちはお料理される食材としてまな板にのった野菜にも興味を示すことになるでしょう。うちでは3歳ぐらいから包丁を持たせているので、5歳児でも上手に包丁が使えるようになるだろうと経験的に思います。お料理のお手伝いは子どもたちの大事な時間。気持ちに余裕がある時は、ぜひ一緒にキッチンに立つことをお勧めしたいです。

サヤインゲンもとても旺盛な生育が見られました。ゴーヤもわりと湿地でも良いだろうと思います。里芋も順調で、大豆や小豆もしっかりと育ってくれました。

豆類が好調で、下はてんこ小豆と呼ぶ秋田の在来種で、お赤飯に使います。それから白あん用の手亡豆。稲刈りが終わったら、大豆5品種と小豆、種用の枝豆の収穫も待っています。

コリアンダーシードも収穫できました。

じゃがいも畑をリセットして、沼山大根、赤カブ、青梗菜などの秋野菜の種を播きました。(8下旬)

こんな感じで季節は春から夏へ、夏から秋へと移ろい、夏野菜も次第に終盤を迎え、枝豆は味がのってきました。夏の枝豆よりも秋の枝豆がおいしいのは朝晩の寒暖の差でタンパク質が糖化するからだそうです。夏は体が水分を欲しますが、徐々に冬へと向かう季節の中で、体が求める食べものも徐々に移り変わり、山菜の収穫のように夏野菜の収穫期はあっという間に過ぎ去ってゆきます。

スーパーでは教えてくれない作物の旬を畑から感じ、そうしたカラダに応じた食材を口にしていく。冬に食ベるものがなくなることを想定してガッコを生み出した先人たちの知恵は凄いなと改めて思います。

そんな先人の叡智に学び、秋の収穫物を利用して目指すのは「沼山大根のいぶりがっこ」のキッチンワーク。

畑は次第に秋色を帯びてきたところです。