おさかなマルシェ #05 鮭

たそがれ野育園では今春から「おさかなマルシェ」を連続開催してきました。きっかけは、コロナの影響を受けて飲食店での需要が激減し、市場で魚が売れずに漁師さんが困っているという新聞報道を見て、僕らのコミュニティでも何かしら力になれることはないかという提案でした。これまでは八峰町八森漁協の底引き網漁師・山本太志さんにお魚を直売していただいたのですが、今回は広がるご縁もいただき、象潟漁港の定置網漁師・佐々木一成さんに鮭を持ってきていただくことになりました。佐々木さんは若干31歳の期待の若手漁師です。

佐々木さんは漁師の家に生まれ育ち、子どもの頃から漁師になりたいと思い、高校を出たらすぐにでも漁師になりたかった。しかし父の反対があり水産科のある北里大学に進学、卒業後もすぐには漁師になることを許してもらえず、都内のデパ地下の魚屋さんへ就職したのだそうです。

お父さんが佐々木さんにすぐに漁師になることを許さず、外の世界を見てこいということだったと理解したのは、佐々木さんが漁師となって、同乗する船の先輩漁師から「息子が漁師になりたいということを嬉しそうに語っていた」と亡き父についての思い出話を聞いたときだったそうです。

佐々木さんについて詳しくは、にかほのほかにで紹介されていますのでこちらもどうぞ読んでみてください。

水産資源の管理や持続的な漁法、漁業界の抱える問題などについて熱い想いを打ち明けてくれる佐々木さんと僕は意気投合し、農業と漁業の類似点や相違点などについて語らうことになりました。そして、より深く、海のことや魚のこと、漁業という生業について知りたいと思うようになっていました。

佐々木さんは漁チューバーとしてご自身のyou tubeチャンネルも持っていますので見てみてくださいね。とても人当たりの優しい好青年で、荒々しい漁師というイメージが払拭されると思います。

さて、そんな佐々木さんが乗る定置網が狙う魚は、鮭、鱈、ヒラメやカレイなどで、夏場は素潜りで牡蠣やサザエも獲るそうです。早速、そのさけをうちのコミュニティで販売してみないか?と持ちかけてみました。

快くこの提案を受け入れてくれた佐々木さんは、最近ポケットマルシェで魚の直売を始めたところ、思いのほか消費者からの反応が嬉しくて、いろいろ想いを巡らせていたとのこと。僕は、「ネット直売というツールも使ってみたら良いと思うけど、実際に食べる人の前で捌き方を実演して、食べ方についてもご教示していただけたら、本当に顔の見える関係を築けるはず」と伝え、野育園のメンバーへ共同購入を持ちかけてみました。

市場に流したらいくらの値がつくのかはあえて聞かず、佐々木さんが漁協に売る分から私たちへの販売するための鮭を確保し、同じ船に乗るメンバーとの相互理解を図る時間、そして運んで来ていただいて、そこで実際に食べる方へ売るという手間や労力、トータルで赤字にならないような値段をつけていただいて、最低決行購買数のラインを5万円と設定しました。

佐々木さんが提示した鮭一本の価格はオスが3,000円、メスが5,000円。市場価値がわからないので、これが高いのか安いのかは判らないし、そんなことはどうでも良い。佐々木さんの生業のプラスになる価格設定であればそれが望むところだと思うし、そこに市場の異論を挟む余地がない。競争相手がいないのだから。

野育園のメンバーが次々と手を挙げてくれて、オス10本、メス10本の注文予約が入り、このプロジェクトは無事、決行される運びとなりました。

佐々木さんから10本確保しました!と送られてきた写真

通常のマルシェでは行き当たりばったりの消費行動に挑むため、売れ残りが出そうになると叩き売りが始まる。これは本来、生産者に取っては好ましくない姿だ。あらかじめ売り上げと完売が確約されたマルシェにはロスが存在しない。

翌日、1本3-4kgにもなる巨大な鮭を積み込んだ佐々木さんの軽トラの到着に感嘆の声が上がる。

昨日、水揚げされたばかりのオスとメスの鮭のその勇ましさ。ほぼ切り身しか知らない我が家におたけびがこだました。

生身の鮭をいきなり捌くのかと思いきや、何と佐々木さんが用意してきたのが定置網の構造と魚の動き。お魚の骨格についての「紙芝居」。説明上手で絵も上手。佐々木さんの魚好きが一瞬にして理解できるそんな時間でした。

はい、それで本番の鮭の解体講座に入ります。佐々木さんが用意してきてくれたのはカッパ橋で数千円の牛刀。出刃包丁はなくても良いのだそう。

見事に研がれたその道具の扱いにも感服し、メンバーはエラの取り方、内臓の取り方について学ぶ。

そして、実演。自分でできるようになることが何よりも望ましいし、大きな魚だからといって臆することはないと佐々木さんが優しく指導してくれる。

まずは、処理が比較的に簡単なオスについて学んだ後、次はイクラの取り方について学ぶ。ちなみにメスにはイクラがあるが、身はオスの方が断然美味しいのだという。メスはすべての生命力を次世代の子たちのために費やす。成長点が卵に移行しているという命の講義。どちらが美味しいを比較するのもナンセンスだが、イクラが出てきた瞬間は生唾を飲む音が聞こえてくる気がした。

一腹というのは、左右の両腹についている魚卵のことだと学ぶ。薄い内膜に包まれていいるので塩水で洗いながらほぐし、醤油漬けにする方法を学ぶ。

佐々木さんがおまけに持ってきてくれた鍋こわしこと ケムシカジカ

佐々木さんに運んでいただいた鮭はそれぞれの家庭に運ばれ、それぞれ食されることになった。その喜びが佐々木一成という漁師と海や山の守人に届くと良い。

食べることは生きることなのだから、その行為に自然と自分の関係性を育み、そして生きる、未来へと続くストーリーを紡ぐという暮らしのダイナミズムを僕は、子どもたちへと伝達したいし、それを伝えていきたいと思う。

我が家では、オス鮭一本を荒巻鮭にしていぶして正月を祝うことにした。めでたい日の祝いの肴を家族で愛でたいがために。

子どもたちと鮭を捌く
塩漬けすること1週間
沼山大根と一緒に燻製
荒巻鮭の燻製、これをさらに風乾して完成